透谷の語彙

 

大型国語辞典の用例に透谷の文が採用されているものを収集。

重複する語は大辞泉を優先して基本的に省いたが、引用箇所が異なる場合は掲載。

 

出典の略号

内部生命論→内部

明治文学管見(文学史骨)→管見

厭世詩家と女性→厭女

各人心宮内の秘宮→秘宮

 

大辞泉

唯諾(いだく)...人の言うことをそのまま承知すること。『管見』在来の倫理に唯諾し、在来の道徳を墨守し

怪訝(かいが)...納得がいかず、けげんに思うこと。『厭女』少年の頃に、浮世を怪訝し、厭嫌するの情起り易きは

閑殺(かんさつ)...人の気持ちを暗くし、活気を失わせること。『熱意』冷淡は人を閑殺し

崎嶇(きく)...世渡りの厳しく困難なさま。『二宮尊徳翁』轗軻崎嶇たる人生の行路に遭いて

窮通(きゅうつう)...「窮達」に同じ。『管見』人間の窮通は機会の独断すべきものにあらずして

恟然(きょうぜん)...驚き恐れるさま。また、驚き騒ぐさま。恟々。『泣かん乎笑はん乎』人心何となく恟然たり

苦惨(くさん)...苦しくみじめなこと。『罪と罰』焔柱を抱くの苦惨を快とせしむる事あり

究竟(くっきょう)...つまるところ。畢竟。『内部』究竟するに善悪正邪の区別は

喧囂(けんごう)...がやがやとやかましくすること。『頑執妄排の弊』魚市に喧囂せる小民

現然(げんぜん)...明らかに見えるさま。『楚囚之詩』常に余が想像には現然たり

堅忍(けんにん)...我慢強くこらえること。『泣かん乎笑はん乎』堅忍し、励精し、以て人生の嶮山を越えしむるは

紅塵(こうじん)...俗人の住む世の中。また、俗世の煩わしさ。俗塵。『当世文学の潮模様』紅塵深く重りて厭う可き者多し

荒漠(こうばく)...荒れはてて寂しいさま。『秋窓雑記』荒漠たる原野

孤雲(こうん)...他に離れて空に浮かぶひとひらの雲。『山庵雑記』孤雲野鶴を見て別天地に逍遥するは

惨憺(さんたん)...薄暗くて気味が悪いさま。『楚囚之詩』余を…この惨憺たる墓所に残して

柵(しがら)む...絡みつく。まとわりつく。『「歌念仏」を読みて』親方の情に柵まれて

刺撃(しげき)...「刺激」に同じ。『明治文学管見』此時に当って横合より国民の思想を刺撃し

夙昔(しゅくせき)...昔から今までの間。以前から。『三日幻境』己が夙昔の不平は

常久(じょうきゅう)...いつまでも変わらずに続くこと。『内部』造化は常久不変なれども…人間の心は千々に異なるなり

盛壮(せいそう)...年若くて元気の盛んなこと。『厭女』所謂詩家なる者の想像的脳膸の盛壮なる時に

悽惻(せいそく)...悲しみいたむこと。『「歌念仏」を読みて』悽惻として情人未だ去らず

双輪(そうりん)...二つがそろってはじめて用をなす物事のたとえ。『管見』快楽と実用とは、文学の両翼なり、双輪なり

退譲(たいじょう)...自分を卑下して人に譲ること。『秘宮』自らを誇示するものあれば、自らを退譲するものあり

多恨(たこん)...うらむ気持ちや、後悔する気持ちの多いこと。『管見』人生は斯の如く多恨なり

断截(だんせつ)...たちきること。『心機妙変を論ず』発露刀一たび彼の心機を断截するや

朝暉(ちょうき)...朝日。『管見』玉露のはかなく朝暉に消ゆるが如く

凋衰(ちょうすい)...勢いを失うこと。『泣かん乎笑はん乎』公伯の益す昌えて農民の日に凋衰するを見ずや

通貫(つうかん)...つらぬきとおすこと。また、物事に広く通じていること。『楚囚之詩』曽つて万古を通貫したるこの活眼も

呈出(ていしゅつ)...ある状態を現すこと。『「日本の言語」を読む』英国は十五世紀以後、文学の大壮観を呈出せる土地にして

電影(でんえい)...いなびかり『富嶽の詩神を思ふ』山腹の電影よりも速に滅する浮世の英雄

悖逆(はいぎゃく)...正しい道などにそむくこと。『心機妙変を論ず』人を己れの慾情の為に殺害するの悖逆なるを知る

泛泛(はんぱん)...軽々しいさま。『一夕観』泛泛たる文壇の小星

沖(ひい)る...空高く舞い上がる。『ヱマルソン』東天に沖るが如く

飄忽(ひょうこつ)...急に出没するさま。忽然。『富嶽の詩神を思ふ』飄忽として去り

睥睨(へいげい)...横目でじろりとにらみつけること。『楚囚之詩』眼は限られたる暗き壁を睥睨し

漫語(まんご)... 「漫言」に同じ。『時勢に感あり』漫語する者あり、吾れ文学世界の一王なりと

沐浴(もくよく)...恩恵などを受けること。『管見』均しく王化の下に沐浴することとはなれ

雄豪(ゆうごう)...雄々しく強いこと。『楚囚之詩』真に雄豪なる少年にてありぬ

雄邁(ゆうまい)...気性が雄々しくすぐれていること。『厭女』彼の雄邁にして輭優を兼ねたるダンテをして

履践(りせん)...実行すること。『処女の純潔を論ず』桃青は履践し馬琴は観念せり

類同(るいどう)...似かよっていること。『厭女』是等の類同なる諸点あるが故に

 

 

大辞林

握取(あくしゅ)...しっかり保つこと。『管見』公共的の自由を…握取せる共和思想なり

暗索(あんさく)...分からないながらあれこれと探ってみること。『内部』人間の根本の生命を暗索する

化育(かいく)...天地自然が万物を作り育てること。『管見』然らざれば凡ての文明も,凡ての化育も虚偽のものなるべし

解綬(かいじゅ)...官職を辞すること。『管見』政治の枢機を握り,既に大小の列藩を解綬し

嘉讃(かさん)...ほめたたえること。『内部』此目的の外に嘉讃すべき写実派の目的はあらざるなり

刮目(かつもく)...目をこすってよく見ること。『管見』請ふ,刮目して百年の後を見ん

願求(がんきゅう)...願い求めること。『管見』必要とする器物もしくは無形物を願求するの性

煥発(かんぱつ)...輝くように現れ出ること。『管見』凡そ外交問題ほど国民の元気を煥発するものはあらざる也

願欲(がんよく)...そうなってほしいと願うこと。『管見』快楽を願欲するに至る時は

羈縛(きばく)...つなぎしばること。『管見』倫理道徳は人間を羈縛する墨縄に過ぎざるか

機務(きむ)...機密の政務。『管見』社会各般の機務に応ずべき用意を厳にせり

窮通(きゅうつう)...貧窮と栄達。『管見』人間の窮通消長は機会(チャンス)なるものゝ横行に一任するものなるか

喁々(ぎょうぎょう)…どうしてよいかわからず苦しむさま。『管見』人間生活の状態を観よ,蠢々喁々として,何のおもしろみもなく

嚮導(きょうどう)...先に立って導くこと。『管見』彼の改革は…国民の理想を嚮導したるものにあらず

享有(きょうゆう)...生まれながらもっていること。『内部』生命の泉源なるものは,果して吾人々類の享有する者なりや

禁囚(きんしゅう)...自由な動きを封じること。『管見』斯の如く意の世界に於て人間は禁囚せられたる位置に立つ

欽(きん)す...うやまう。『泣かん乎笑はん乎』其天真の照々として見る可き者あるを欽す

攻究(こうきゅう)...学芸などを深くきわめること。『管見』思想の歴史を攻究する

高上(こうじょう)...品位や程度がたかいこと。『内部』詩人哲学者の高上なる事業

吾人(ごじん)...一人称。『内部』吾人は人間に生命ある事を信ずる者なり

古昔(こせき)...いにしえ。『管見』この紅涙こそは古昔より人間の特性を染むるもの

砕折(さいせつ)...くだきおること。『管見』従来の組織を砕折し

再造(さいぞう)...もう一度つくること。『内部』人間の内部の生命を再造する者なり

察(さっ)する...詳しく調べる。『内部』一輪の花も詳に之を察すれば

孳々(じじ)...一生懸命に努力するさま。『管見』彼は孳々として物質的知識の進達を助けたり

自造(じぞう)...みずからの力でつくりだすこと。『内部』人間の自造的のものならざることを信ぜずんばあらざるなり

疾悪(しつお)...にくむこと。『管見』相疾悪するもの政府部内に蟠拠するあれば

自動(じどう)...他からの力によらず,自分の力で動くこと。『管見』思想の自動多きに居りたるなり

終古(しゅうこ)...永遠。『管見』精神は終古一なり,然れども人生は有限なり

蠢々(しゅんしゅん)...とるに足らないもののうごめくさま。『管見』人間生活の状態を観よ,蠢々喁々として

象外(しょうがい)...現実の世界を超越したところ。『三日幻境』天狗と羽を並べて,象外に遊ぶの夢に

浄潔(じょうけつ)...清くいさぎよいこと。『秘宮』極めて浄潔なる聖念に

象顕(しょうけん)...しるしやかたちとしてあらわれること。『内部』造化も亦た…神の形の象顕なり

情熱(じょうねつ)...英語 passion の訳語。北村透谷の造語とされる

喞々(しょくしょく)...悲しみ嘆くさま。『一夕観』喞々として秋を悲しむが如きもの

聖愛(せいあい)...きよらかな愛。『熱意』或は聖愛,或は痴情

済々(せいせい)...威儀がととのったさま。『管見』済々たる名士

悽惻(せいそく)...いたましく思うこと。『厭女』沈痛悽惻人生を穢土なりとのみ観ずる

制抑(せいよく)...勢いや動きをおさえ止めること。『管見』思想界には制抑なし

摂理(せつり)...代わって処理すること。『管見』北条氏は恰も番頭の主家を摂理するが如くなりしなり

潜逸(せんいつ)...ひっそりと隠れること。 『管見』文学は必らず活動世界を離れたる場所に潜逸するものなり

千古(せんこ)...遠い昔。『内部』内部の生命は千古一様にして

前古未曽有(ぜんこみぞう)...昔からかつてなかったほど珍しいこと。『管見』維新の革命は前古未曽有の革命にして

禅坐(ぜんざ)...座禅をすること。『心機妙変を論ず』暗中禅坐する時

創興(そうこう)...新しくつくって興すこと。『内部』平民的思想を創興せざるべからず

蒼生(そうせい)...多くの人々。『管見』天下の蒼生が朝夕を安んずること能はざる時

相対(そうたい)...互いに他との関係をもち合って成立・存在すること。↔絶対『管見』慰藉といふ事は…何物にか相対するものなり

対手(たいしゅ)...戦う相手。『心機妙変を論ず』対手を害せし事は事実なるべし

澹乎(たんこ)...静かでゆるやかなさま。『ヱマルソン』彼は澹乎として之を憂ひず

暢達(ちょうたつ)...のびそだつこと。『管見』泰平の来る時文運は必らず暢達すべき理由あり

沈冥(ちんめい)...静かで奥深いこと。『秘宮』第二の秘宮は常に沈冥にして無言

討究(とうきゅう)...物事を深く研究すること。『管見』討究しつつある問題

撞着(どうちゃく)...ぶつかること。『管見』一の私見と他の私見と撞着したる時に

特書(とくしょ)...特筆。『管見』特書すべき文学上の大革命なるべし

独存(どくそん)...単独で存在すること。『管見』精神に至りては始めより…独存するものなり

盤踞(ばんきょ)...広い土地に勢力を張って,そこを動かないこと。『管見』異分子の…政府部内に盤踞するあれば

蛮野(ばんや)...「野蛮」に同じ。『管見』尤も蛮野なる種族

飄落(ひょうらく)...おちぶれること。『心機妙変を論ず』志の壮偉なる事は全盛の平家を倒して孤島飄落の人を起す程にありて

標率(ひょうりつ)...算定の基準。『管見』事物の真価を論ずるに,其的,其結果,其功用のみを標率とする時は

冥契(めいけい)...言葉を交わさずに心が通うこと。『内部』瞬間の冥契とは何ぞ

黙従(もくじゅう)...だまって従うこと。『内部』自由の精神は造化に黙従するを肯ぜざるなり

揚言(ようげん)...公然と言うこと。『管見』文学は人生に相渉るべからずと揚言する愚人は